2ストロークとは何ぞか。-DT50購入記-
甲高い騒音を撒き散らし、白く臭い排煙を後続車にプレゼント。白い服で乗ろうものならたちまち背中が黒点まみれ。
低速トルク・耐久性・環境性能全てを犠牲にして得たパワーバンド回転域での強烈な加速は乗る者を魅了してやまなかったという。
排ガス規制により絶滅した過去の遺物。
物心ついたころから4ストロークの野太い音と綺麗な排ガスが当たり前であった僕くらいの世代の者にとって、一種の憧れの対象であることは間違いない。
大学生になって普通二輪免許を取得し、数台の単車を乗り継いだ僕も同様の憧れを抱いたのであった。
「2st車が欲しい」
ロクに貯金も無い学生故、入手可能な術は某オークションほぼ一択。既に数台購入の経験があるので今回も利用することにした。
購入にあたっての条件は、以下の3つ。
・予算5-6万
・トレールもしくはオフロード系
・原付2種(登録)以上
車種も実働か否かもこだわりがなかったので、近場で予算内のものを検索して一番上に出てきたものを落札。
軽トラをレンタルし、友人と共に何やかんやありつつも出品者の元から引き取ることに成功。
車種は題名にある通り。
YAMAHA DT50(A-17W)
エンジン型式 2サイクル・水冷・ピストンリードバルブ
排気量 49㏄
最高出力 7.2ps/8500rpm
最大トルク 0.62kg・m/8000rpm
4ストロークネイティブにはなんとも刺激の強い数値である。最高出力と最大トルクの発生回転数の差の無さがもうピーキー度合いを全力で主張している。
DT50といえば1982年の発売から1997年の国内最終モデルまでほとんどモデルチェンジをせずに販売された長寿モデルであるが、僕の購入した個体はキャブヒーターが付いている点と車体グラフィックから1984年発売の54A前期であると思われる。
即決5万であったためにエンジン状態には期待していなかったものの、なんと引き取り時に落札者さんのキック一発で始動という好コンディション。実に33年近く前の旧車と呼べるバイクがキック一発でエンジン始動するだけで僕のお腹はいっぱいである。
購入時点での要整備個所は、
①キャブレターのオーバーフロー
②タイヤが完全硬化
③ハンドル曲がり
④その他油脂関係
以上4つ程度と大したことがなかったので早速取り掛かることにした。以下ダイジェストで。
①キャブレターのオーバーフロー
何よりもまずキャブレターを開けてみると…
美味しそう。
キャブクリーナーの甘い香りにクラクラしながら軽く掃除をしただけでオーバーフローは解消。
(組みつけ時に保険で塗っておいた液体ガスケットがフロートにくっついてオーバーフローが悪化し数日悩み続けたなんていうドジはしていない。)
(インシュレーターの組み付け不良で絶不調になってこれまた数日間悩み続けたなんていう…)
完全にタンクが錆びているとわかったので、サンポール療法による錆取りを実施。
タンク内を入念に脱脂した後、80度くらいのお湯にサンポール1.5Lを入れて数時間放置。そして入念に洗い流すと、
これまたおいしそうなチョコレートが大量に出てきた。
完全に取りきることは無理だが、やらないよりはマシであろう。たとえまた詰まったら掃除すればいいし。
(この夜突然コックからガソリンが漏れ出して一晩でタンクが空になり錆取りの意味がほぼなくなった、なんてこともあったはずがない。)
たとえまた詰まったら掃除すればいいのだ。DIY。
②タイヤが完全硬化
製造18年後のタイヤの状態の勉強になりました。
フロントにダンロップ製K350、リアはIRC製GP-を装着。前後銘柄が違う理由は単純に一番安いものを選んだから。
細いタイヤは交換が楽で助かりますね。(チューブに穴を開けたなんていうドジはしていない)
③ハンドル曲がり
実は出品者の方から交換用ハンドルをいただいていたのでそれに交換。本当にありがとうございます。
④その他油脂関係
クーラントもおいしそうな色。ドリンクバーでコーラとメロンソーダを混ぜたらこんな感じ。
ギアオイルは適当に家にあった4stオイルに交換したものの、前オーナー(出品者の方)により交換されていたらしく完全な徒労に。
それにしても造りが本当に単純で一瞬でばらすことができる。オモチャみたい。
一通りの手直しを終えた後、登録と自賠責加入を済ませて晴れて2stデビュー。さていかほどに…
‐10分後‐
「すっごく乗り辛い。臭い。あと臭い。」
7000回転以下では苦しそうに咳き込むように回りながら走るが、ひとたびパワーバンドに入ると原付とは思えない加速をし、ふとメーターをみればとんでもない速度を指している。
一つ言える、30km制限の乗り物ではない。そもそもでスピードメーターが80㎞までふってあるところからして守らせる気がない。警察のお小遣い稼ぎマシーンである。
最初はそのピーキーさに辟易していたが、しばらく乗っていく内に特に意識せずに回転数を維持できるようになった。今では日常の足バイクとして活躍をしている。ちなみに燃費はリッター30㎞程度と想像以上に良好。
オフロード車を買ったとなれば、やることは一つということで林道に行ったりもした。
カブで行った時とはまったくもって別次元の速度で走破でき、必要十分なパワーと1速2速を使ってぐいぐいと登っていくことができ、オフロード車はやはりオフロード車なんだなという意味不明な感想に至った。
結論として、2stに憧れて買ったものの、怠惰な自分には身に余る代物であると感じた。シビアな回転数維持とギアチェンジの必要性、気温と天候に左右される調子、あと臭い。
批判的な内容になってしまったが、しばらくは乗り続けていこうと思う。林道が本当に面白い。
【おまけ】
バイクにあまり詳しくない友人の一言
「くっさ…!てか火事?」